うつわソムリエが教える|和食器がもっと好きになる やきもの用語完全ガイド

和食器を選ぶとき、「陶器と磁器の違いって何だろう?」
「粉引や焼締って、どういう意味?」そんな疑問を持ったことはありませんか。
和食器の世界には、陶器・磁器・染付・粉引・焼締・鎬(しのぎ)など、独特のやきもの用語や技法が数多く存在します。
これらの言葉を少し知るだけで、器の見え方や選び方、使う楽しさはぐっと深まります。
本記事では、うつわソムリエの視点から和食器の基礎知識と、知っておきたいやきもの用語・技法を、初心者の方にもわかりやすく解説します。
専門的になりすぎず、「なるほど、そういうことか」と腑に落ちることを大切にしました。和食器は、ただの“器”ではありません。
土や釉薬、炎、そして職人の手仕事によって生まれる、一つひとつ表情の異なる存在です。
その背景を知ることで、日々の食卓や贈り物選びが、もっと豊かで楽しいものになります。
「和食器をこれから揃えたい方」も、「なんとなく使っていた器を、もっと深く楽しみたい方」も。
ぜひこのやきもの用語完全ガイドを通して、和食器の奥深い魅力に触れてみてください。
- 磁器と陶器の違いとは?|和食器を知るための基本中の基本
- 磁器と陶器の違いをひと目で比較
- 和食器の技法・装飾用語を「要素別」に理解する
- まとめ|技法を知ると、和食器はもっと面白くなる
和食器を選ぶうえで、まず知っておきたいのが「磁器」と「陶器」の違いです。
見た目が似ていても、原料や焼き上がりの性質は大きく異なり、使い心地や向いているシーンにも違いがあります。
ここでは、うつわソムリエの視点から、磁器と陶器それぞれの特徴と、選び方のポイントをわかりやすく解説します。。
陶器(とうき)とは|土のぬくもりを感じる和食器
陶器は、主に陶土(とうど)と呼ばれる土を原料とした器で、「土物(つちもの)」とも呼ばれます。
焼き上がりはやや厚みがあり、表面には細かな凹凸が残るため、手に取るとやさしく、あたたかみのある質感を感じられるのが特徴です。
熱伝導率が低く、お茶や汁物など温かい料理に向いています。
また、釉薬のかかり方や焼成の違いによって、一つひとつ表情が異なる点も陶器ならではの魅力。使い込むほどに味わいが増し、日常使いの器として親しまれています。

磁器(じき)とは|なめらかで端正な美しさをもつ器
磁器は、細かく砕いた陶石(とうせき)を主原料とする器で、「石物(いしもの)」とも呼ばれます。
高温で焼き締められるため、素地は硬く緻密で、表面はなめらかで清潔感のある仕上がりになります。陶器に比べて割れにくく、吸水性が低いのも特徴です。染付や白磁に代表されるように、繊細な絵付けやシャープなフォルムが映えるため、料理を引き立てたい場面や、きちんと感のある食卓に選ばれます。

磁器と陶器の違いをひと目で比較

どちらが良い?ではなく
「どちらを選ぶか」磁器と陶器に、優劣はありません。
大切なのは、使うシーンや好みに合っているかどうかです。
土の表情やぬくもりを楽しみたいなら陶器、料理を美しく見せたい、扱いやすさを重視したいなら磁器。
それぞれの違いを知ることで、和食器選びはぐっと楽しくなります。
和食器の技法・装飾用語を「要素別」に理解する
和食器の表情は、単なるデザインではなく、土・化粧・削り・絵付け・焼成といった複数の工程が重なって生まれています。
やきもの用語を理解するためには、「技法の名前」を覚える前に、どの工程で、何をしているのかという視点で整理することが大切です。
和食器の技法・装飾は、大きく分けると次の6つの要素に分類できます。。
① 素地・素材そのものの表情を生かす技法
和食器には、装飾を加える前に土や石そのものの質感・美しさをどう見せるかを重視した器があります。
この分類では、素材が主役になります。
焼締(やきしめ)
釉薬をかけずに高温で焼成し、土をしっかりと締めた技法です。
表面には炎の当たり方による自然な焼き色や火色が現れ、素朴で力強い表情を楽しむことができます。
古くから、急須・茶碗・壺・甕などに用いられてきました。

白磁(はくじ)
カオリンを含む土を素地に、透明度の高い釉薬をかけて高温で焼き上げた磁器です。
装飾を抑えた潔い白が特徴で、指で軽く弾くと金属的な澄んだ音がします。料理や空間を引き立てる、余白の美を楽しむ器です

② 化粧土によって表情を加える技法
粉引(こひき)
素地の上に白い化粧土を施し、その塗り方・描き方によって表情を生み出す技法です。土ものらしいやわらかさが魅力になります。
刷毛目(はけめ)
白い化粧土を固めの刷毛で一気に塗る装飾技法です。
刷毛の動きがそのまま残り、濃淡やかすれ、躍動感のある表情が生まれます。手仕事らしさを強く感じられる技法です。

一珍(いっちん)
口金のついた袋に白い化粧土を入れ、絞り出すように文様を描く技法です。
線が盛り上がり、立体感のある装飾になるのが特徴。ケーキのデコレーションに例えられることもあります。

③ 彫る・削ることで模様を生む技法
器の表面を削る・刻むことで模様を作り、光と影、立体感を生み出す技法です。触れたときの感触も魅力のひとつです。
櫛目(くしめ/櫛描)
素地が半乾きの状態で、櫛状の道具を使って波型や平行線の文様を描く技法です。
化粧土の上から刻むこともあり、規則性の中に手仕事の揺らぎが感じられます。

飛鉋(とびかんな)
とびかんなは、ろくろで回転する器の表面に金属製の鉋を軽く当て、リズミカルな削り跡を刻む装飾技法です。
規則的に並ぶ点や線は、機械ではなく、職人の手の動きと呼吸によって生まれるもの。
一見素朴に見えますが、ろくろの回転速度、土の乾き具合、指先の力加減が少しでもずれると、美しい模様にはなりません。
金属の道具は「削る」のではなく、土に触れて弾くように使われます。
その一瞬の感覚をつかむには、長年の経験が必要です。同じ模様は二つと生まれず、わずかな揺らぎやリズムに、手仕事ならではの温もりと奥行きが宿ります。
日常使いの器に、静かな表情と使うほどに愛着が深まる美しさを与えてくれる技法です。

鎬(しのぎ)
しのぎは、へらなどの道具を使って器の表面をえぐるように削り、稜線(りょうせん)を際立たせた立体的な文様です。
削る動作によって生まれる陰影は、光を受けるたびに表情を変え、器に奥行きと存在感を与えます。
「しのぎ」という名称は、日本刀の**鎬(しのぎ)に由来します。刀身に走る鎬筋が刃の強度と美しさを両立させているように、器のしのぎもまた、力強さと緊張感を感じさせる意匠です。
一見、規則的に見える線ですが、すべて手作業で削られているため、完全に同じ幅や深さにはなりません。
そのわずかな揺らぎが、冷たくなりすぎない表情を生み、手仕事ならではの温もりを感じさせます。見た目の美しさだけでなく、指に自然に引っかかるため持ちやすく、実用性にも優れた技法。日常の器に、凛とした佇まいと使い心地の良さをもたらしてくれる装飾です。

④ 絵付けによって装飾する技法・様式
筆を使って文様を描き、色や線の美しさで器を彩る装飾です。主に磁器で発展してきました。
染付(そめつけ)
白い磁器の素地に、酸化コバルト(呉須)で絵付けをし、透明釉をかけて還元炎で焼成したものです。白と藍のコントラストが美しく、日本の食卓で最も親しまれてきた装飾のひとつです。

赤絵(あかえ)
本焼した陶磁器の上に、赤を主調として緑・黄・青など多彩な色で絵付けし、低い温度で再度焼き付けたものです。華やかで祝いの席にもよく用いられ、「色絵」とも呼ばれます。
⑤ 焼成によって生まれる偶然の景色
ここで扱うのは、技法というより焼成の結果として現れる表情です。人の手では完全にコントロールできません。
窯変(ようへん)
窯で焼成する際、炎の流れや釉薬の反応によって、予想していなかった色や景色が現れる現象です。同じ条件でもまったく同じ表情は生まれず、その個体差こそが和食器の魅力として愛されています。
⑥ 釉薬・造形・意匠を含む「様式」としての焼き物
和食器の中には、単一の技法や装飾では語りきれない、色・形・文様・思想までを含んだ「様式」として成立している焼き物があります。釉薬の発色や器の造形、絵付けの構図だけでなく、「どのような美を良しとするか」という価値観そのものが反映された器です。その代表的な存在が、織部(おりべ)です。
織部(おりべ)
織部は、桃山時代に活躍した茶人・武将である古田織部の美意識から生まれた焼き物の様式です。
最大の特徴は、青緑色の釉薬「織部釉」。
これは、灰釉に銅を加えることで発色するもので、それまでの焼き物には見られなかった、強い個性を放ちます。
しかし、織部の本質は色だけではありません。あえて歪ませた器の形、余白を活かした大胆な構図、鉄絵による自由で抽象的な文様など、複数の要素が組み合わさった総合的な美意識にあります。
端正で整った美を重んじてきたそれまでの器とは異なり、「不均衡」「違和感」「遊び」といった感覚を積極的に取り入れた点が、織部を革新的な存在にしました。

まとめ|技法を知ると、和食器はもっと面白くなる
和食器の技法や装飾用語は、一見すると難しく、覚えることが多いように感じるかもしれません。
しかし、本来それらは、知識をひけらかすための言葉ではなく、器を楽しむための手がかりです。
土の質感を生かした焼締、白い化粧土で表情を与える粉引や刷毛目、削りによって生まれる鎬や飛鉋の陰影、筆で描かれる染付や赤絵の世界。そして、古田織部が切り開いた、みどり色と遊び心の美意識。
それぞれの技法には、なぜその形になったのか、なぜその表情が生まれたのかという理由があります。
背景を知ることで、器は「ただ使うもの」から「選ぶ楽しみのある存在」へと変わっていきます。
和食器に、正解や優劣はありません。大切なのは、自分の暮らしや感性に、どの表情がしっくりくるかということ。
今日使う器を、ほんの少し違う目で眺めてみる。それだけで、食卓の風景はきっと豊かになります。
